働き方図鑑.パソコンと歩んだ30年。自分らしさを貫き、理想のキャリアを掴んだ社内SE、Aikoさんの物語

「働き方図鑑」シリーズでは、「あなたの当たり前は他人の学び」をテーマに、様々な職業の方、様々なキャリアを重ねてきた方の働き方に焦点をあて、隣の誰かがどのような仕事にどのような思いで取り組んでいるかを紹介いたします。

インタビュー日時:2025年7月

1. すべての始まり:小学生で出会ったコンピューターの世界

AikoさんのITへの情熱は、まだインターネットが普及する前の時代、小学生の頃に芽生えました。その原体験が、後の彼女のキャリアを決定づけることになります。

• Q: パソコンとの最初の出会いはいつでしたか?

    ◦ A: 小学生の時、友人に誘われて参加したパソコン教室がすべての始まりでした。当時はまだ珍しかったパソコンで簡単なコンピューターグラフィック(CG)が動くのを見て、「これは最先端だ」と子どもながらに深く感動したことを覚えています。

• Q: プログラミングに興味を持ったきっかけは何ですか?

    ◦ A: 3つの大きなステップがありました。

        1. ファミコンブーム: 当時大流行したファミリーコンピュータの周辺機器「ファミリーベーシック」に夢中になりました。雑誌に載っているプログラムをひたすら打ち込み、ゲームが動くことに没頭する毎日。この経験が、後のキャリアに不可欠な集中力を養ってくれたと感じています。

        2. 高校時代のパソコン: 高校生になり、ようやく自分のパソコンを手にしました。BASIC言語というプログラム言語を使い、夢中で遊ぶように学んでいました。同世代の男の子たちがアニメや野球に熱中する中、私の興味は一貫してコンピューターの世界にありました。

        3. 選択科目「情報」: 高校3年生の時、選択科目に「情報」がありました。非常に人気で抽選になるほどでしたが、幸運にも受講することができました。この授業を通して、「もっと本格的にコンピューターを学びたい」という決意が固まり、専門学校への進学を決めました。

小学生の時に灯った好奇心の火種は、やがて揺るぎない情熱の炎となり、Aikoさんを教室からプロフェッショナルの世界へと導きました。社会を形作るシステムを、自らの手で生み出すために。

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2. ITプロフェッショナルとしての軌跡:挑戦とキャリアアップの30年

専門学校を卒業後、AikoさんはIT業界の最前線に飛び込みます。彼女のキャリアは、会社の合併や人員不足といった外的要因によって幾度も航路を変えることを余儀なくされました。しかし、彼女はその変化をただ受け入れるのではなく、常に状況に適応し、新たなスキルを習得する機会へと変えていきました。その驚くべき適応力と回復力こそが、彼女のキャリアを支える真の強みでした。

まずは、彼女の30年以上にわたるキャリアの変遷を一覧で見てみましょう。

年代 (目安)職種主な役割・経験転機のきっかけ
20代プログラマー / 開発系SE保険会社のシステム開発、設計からプログラミングまで担当サブリーダーとして人に教えることに喜びを見出す
30歳手前テクニカルサポートPCメーカーで「感動を呼ぶサポート」を実践開発経験を活かし、人に教える仕事への転職
30代開発系SE (社内異動)給与計算システムの開発、オフショア開発(マレーシア)会社の吸収合併と開発者不足による人事異動
40歳手前社内SE (社内異動)初めての社内SE。海外拠点との調整、ユーザー管理など情報システム部門の人員不足による人事異動
40代社内SE (転職)医療系企業で社内SE。外部業者との交渉を本格的に経験前職の会社の日本撤退
現在社内SE (転職)服装の理解がある会社で、理想の姿で働く自分らしく働くための転職

• Q: 最初のキャリア、開発系SEの仕事の魅力と大変だった点は何ですか?

    ◦ A: 魅力は、やはり「自分の作ったプログラムが社会の役に立っている」という大きな満足感でした。担当していた保険会社のシステムが実際に動いているのを見ると、強いやりがいを感じました。一方で、大変だった点は「納期に追われる厳しさ」です。常に時間に追われるプレッシャーがあり、体調管理が非常に重要でした。

• Q: なぜ開発の第一線から、テクニカルサポートへ転職したのですか?

    ◦ A: 開発チームでサブリーダーを務める中で、後輩に技術を教える機会が増えました。その経験から、「もっと本格的に人に教える仕事をしたい」という気持ちが強くなったのです。ちょうどその頃、転職フェアに参加し、PCメーカーのテクニカルサポートという仕事に出会いました。

• Q: テクニカルサポートでは何を心がけていましたか?

    ◦ A: 会社の方針でもあった「感動を呼ぶサポート」を常に目指していました。具体的には、「お客様が満足するまで、こちらから電話を切らない」「最後に必ず『ありがとう』と言ってもらう」ということを自分の中のルールにしていました。この経験を通じて、相手の知識レベルに合わせて複雑なことを分かりやすく伝えるコミュニケーション能力が磨かれました。

• Q: その後、再び開発職や社内SEへとキャリアが変わった経緯を教えてください。

    ◦ A: 会社の吸収合併や、開発・情報システム部門の人員不足といった、会社の状況に応じた人事異動が大きなきっかけでした。しかしそれは、受け身の異動ではありませんでした。組織が求める役割に自ら進んで適応し、貢献することでキャリアを形成していきました。特に、マレーシアのチームと共同で行ったオフショア開発では、仕事の途中で「ミサに行っていました」と連絡が取れなくなるなど、文化の違いに驚かされることもありましたが、貴重な学びの機会となりました。

様々な職種を経験し、スキルを磨いてきたAikoさん。特に長く務めている「社内SE」とは、一体どのような仕事なのでしょうか。

3. 「会社のITを支える縁の下の力持ち」社内SEという仕事

「社内SE」は、IT業界を目指す人にとっても少しイメージがしにくい職種かもしれません。Aikoさんは、その役割を「会社のIT基盤を支える、縁の下の力持ち」だと語ります。

• Q: 「社内SE」とは、具体的にどのような仕事をするのですか?

    ◦ A: 特徴は「広く浅く」です。特定の技術を深く追求する開発系SEとは異なり、会社のITに関わるあらゆることに対応します。主な業務は以下の通りです。

        ▪ パソコンやソフトウェアの準備: 新入社員のPC設定や、業務に必要なソフトの導入を行います。

        ▪ セキュリティ対策: ウイルス対策や情報漏洩防止など、会社の情報を守ります。

        ▪ ヘルプデスク: 「パソコンが動かない」「ソフトの使い方が分からない」といった社内からの問い合わせに対応します。

        ▪ ネットワークやサーバーの管理: 社内のインターネット環境やデータが保存されているサーバーが安定して動くように管理します。

• Q: 開発系のSEと比べて、社内SEの仕事の面白さや大変さはどこにありますか?

    ◦ A: 両者には明確な違いがあります。特に社内SEに求められる調整能力は、テクニカルサポート時代に培った「相手に伝わる言葉で説明する」スキルが直接活きています。

項目開発系SE社内SE
やりがい自分が作ったものが社会で動く満足感社内の信頼を勝ち取り、会社の基盤を支える貢献感
厳しさ厳しい納期に追われるプレッシャー経営陣への予算要求や、社内の無理な要求への調整・説明といった調整能力
スキル特定技術の深い専門知識幅広いIT知識と、高いコミュニケーション・調整能力
注意点最新技術に触れる機会が少ないため、自主的な学習が不可欠

専門家として着実にキャリアを築く一方、Aikoさんは自身のアイデンティティと向き合うという、もう一つの大きな転機を迎えることになります。

4. 自分らしさの探求:ありのままで働くという選択

40代半ば、プロフェッショナルとしての自信が深まる一方で、Aikoさんの心の中では、長年抱えていた性別への違和感が無視できないほど強くなっていきました。それは、彼女のキャリアにおける最も重要な、静かな決意へと繋がっていきました。

• Q: 転職を考えた直接のきっかけは何だったのでしょうか?

    ◦ A: 当時勤めていた医療系の会社で、少しずつ服装を女性的なものに変えていきました。レディースのスーツを着ている分には特に何も言われませんでした。しかし、足元を女性用の靴に変えた時、周囲から指摘を受けてしまったのです。その時、「今の会社では、これ以上自分らしくいるのは難しい」と強く感じ、プロとしてのキャリアと、ありのままの自分。その両方を肯定してくれる会社への転職を決意しました。

• Q: 自分らしさをオープンにしての転職活動は、いかがでしたか?

    ◦ A: 最初は試行錯誤の連続でした。履歴書に男性の写真を貼り、面接に女性の姿で行くと「写真と違う」という理由で断られてしまうこともありました。この経験から、「それなら最初からありのままでいこう」と方針を転換。写真は女性の姿で撮り、履歴書の備考欄にも「女性として働きたい」という希望を正直に書くことにしました。

• Q: 正直に伝えた結果、反応はどうでしたか?

    ◦ A: 驚くべき発見がありました。「驚くほど、書類選考の通過率は変わらなかった」のです。面接でも「うちの会社はそういうことにこだわりませんよ」と言ってくれる会社が予想以上に多くありました。自分のスキルと経験をきちんと見てくれる企業は、必ずあるのだと実感しました。

多くの困難を乗り越え、ついに理想の環境を手に入れたAikoさん。彼女の経験から、私たちは何を学び取れるのでしょうか。

5. 未来へつなぐメッセージ:自分を表現して、道は拓ける

30年以上にわたるキャリアと、自分らしさの探求。その両方を手に入れた今、Aikoさんは未来を担う人々に温かく、そして力強いメッセージを送ります。

• Q: 現在の職場で働けていることについて、今どのように感じていますか?

    ◦ A: 「希望の職種で、理想の姿で働けることは非常にありがたいです」。今の職場は若い人が多く、多様性への理解も自然にあるため、差別的なことを感じたことはありません。安心して仕事に集中できる環境に、心から感謝しています。

• Q: 同じように、年齢を重ねてから性別違和に気づいた方へメッセージをお願いします。

    ◦ A: 「無理に我慢するのではなく、自分が表現したいように表現すればいいのではないかと思います」。もちろん、簡単なことではないかもしれません。でも、無理のない範囲で自分を表現していけば、それを受け入れてくれる場所は必ず見つかります。チャンスは、思っているよりもたくさんあるはずです。

• Q: 最後に、IT業界を目指す若者へアドバイスをお願いします。

    ◦ A: 私のキャリアは、決して一本道ではありませんでした。様々な職種を経験し、時には会社の都合で道が変わることもありました。その経験から、大切だと感じるのは次の3つです。

        ▪ 好奇心を持ち続けること: 小学生の時に感じた「すごい!」という感動が、すべての原動力でした。持ち前の集中力で、興味を持ち続けることができました。

        ▪ 変化を恐れず挑戦すること: 新しい職種や環境への挑戦が、スキルと視野を広げてくれました。

        ▪ 専門スキルだけでなく、人との調整や説明能力も大切にすること: 技術力と同じくらい、相手に分かりやすく説明し、信頼関係を築く力がキャリアを支えます。

一台のパソコンから始まったAikoさんの物語は、プロフェッショナルとしての卓越性と、人間としての誠実さは、決して切り離せるものではないと教えてくれます。むしろそれらは、充実した人生という一枚のコインの裏表なのです。彼女の歩みは、未来に悩む多くの人々にとって、確かな希望の光となるでしょう。

Q. 性別違和の方にメッセージをお願いします

周りにに感謝し人に親切にすること
私が性別違和で女性を意識してから、人間性を磨き人に優しく接して気遣うようになりました。
これにより新たな人間関係にも繋がりました。

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